イラン・旅行を終えて(2009年8月5日〜17日)

旅行を終えて

いつか行きたいと思っていたけど、すぐに行こうとは思っていなかったイラン。マスコミの報道では、あまりよい印象のない国のひとつ。短い期間の観光では何もわからないよとよく言われるが、やっぱり行ってみなければわからないこともあるし、何より行ってみたい。ダマバンド登山+観光で正味10日間という短い期間での駆け足旅行。こうすればよかった、ああすればよかった、これがよかった、後悔と反省と満足したことを以下に。

登山

1.テヘランに午前中に到着したので、そのまま登山基地のレイネまで行ったほうが登れる確率が高くなったと思う。レイネは標高2000mあって、高度に慣れるし、涼しくて休養も取れる。
2.もっと日本食を持っていくべきだった。普段、現地食を食べることをモットーとしているため、また、前回までの海外登山で何の問題もなかったため、味噌汁、梅干など最低限の日本食しか持って行かなかったのがつらかった。街では何の問題もなかったが、高度 の影響と乾燥していることもあり、イランの乾いたナンは山では食べにくい。レトルト のおかゆ、味噌汁、炊き込みご飯、ラーメンなどがお勧め。果物は現地で多めに調達しておいたほうがよい。
3.予想以上に山での夕食の時間が遅く(だいたい20時ごろ)、落ち着かなかった。その分出発も7時ごろと遅いのだが、しつこくもっと早くと言えばよかったか。
4.夏のダマバンドは、登山道に雪はなく特別な技術は要らないが、風が吹くととても寒くだらだらと一本調子の登りが続く。寒さと高度対策が必要だが、夏の富士山を御殿場口から日帰りで無理なく登ることができれば登れる確率が高い。景色もよく似ている。事前に富士山の御殿場口からの登山をしておいたことが役に立った。
5.私たちは1日高度順応日を設けたが、よかったかどうかは不明。イラン人、ヨーロッパの人たちは、順応日無しで登る。ただしイラン人の登頂率は低く、30%以下のようだ。
6.残念ながら私より強いはずの夫は体調を壊し登れなかった。同じように事前に準備をしたのだがわからないものである。体調管理の難しさを再認識した。
7.夏のダマバンドは日本の富士山と同じように外国人もいるが圧倒的にイラン人が多い。今までのキリマンジャロパプアニューギニアエクアドルの登山では、ガイドとポーター(エクアドルはポーターなし)が現地の人で、登山者は外国人ばかりだった。外国人にとって敷居の高い国情も影響しているが、イラン人の中に登山や観光を楽しむ余裕があるということでもある。登山のやり方も富士山そっくりで「一度はダマバンドへ」というノリのようで、装備などはあまり充実していない。それでも、みんな賑やかで楽しそうだった。

観光

1.今回は日本語ガイドさん同伴でタクシーでシラーズーヤズドーイスファファンーテヘランと移動する大名旅行。観光も行きたいところだけ行く、食事も付いているのはホテルの朝食のみ。入場料、食事代は1日の終わりに清算というスタイルにした。これが結果的に大成功。飛行機で移動するより回りの景色の変化がおもしろいうえ、車中でガイドさんからイランについてのレクチャーを受けられる。食事もそのときの体調で食べたいものが食べられると、いいことづくめ。ガイドさんが日本人の好みをよく知っており、連れて行ってくれた店はどこもおいしかった。ドライバーの運転も、運転マナーがよければ、全日程を任せるという約束でガイドさんがドライバーを選定してくれたおかげで、イランにしては非常に慎重でおとなしく安心して乗っていられた。車も新品だった。道路は整備されているので、車の移動はお勧めである。
2.観光中のホテルは高級ホテルをお願いした。設備面と朝食を重視してである。ヤズドのモシロールママーレクホテル、イスファファンのアッバシーホテルはかつての隊商宿を利用したもので、趣があり満足した。
3.食事はケバブが中心でやや単調。きゅうりのピクルスが非常においしかった。羊のにおいが苦手なので、羊攻めだと困るなと思っていたら、ガイドさんが心得ていて、鶏または牛のケバブを注文してくれた。ご飯は初めに少なめにと言ったら、ずっと言わなくても少なく注文してくれていた。ホテルの朝食のフルーツはたいていスイカなので(これはこれでおいしいのだが)、スイカが苦手な主人のために果物やでいろいろ果物を買いホテルの部屋で食べた。マンゴーなどおいしかった。ガイドさんに感謝!
4.今回の観光は満足度が高かった。ペルセポリスイマームモスクなど、スケールの大きなものは見るだけでよかったと思えた。もう少し時間に余裕があれば、ペルセポリスの近くのホテルに1泊して、ゆっくりペルセポリスを見たかった。
5.今回ほど買い物をしたことはなかった。スカーフ、トルコ石、絨毯、細密画、どれも好評だった。
6.事前にいくつかイランに関する本を読んで行ったのだが、ペルセポリスなどは高校の世界史の授業を思い出し、初めて少しでも勉強していてよかったと思った。ガイドブックだけではなく小説、歴史など読んでいくと実際に見ているものと頭の中の想像が混ざり合って、満足度が高い。しかし、イランの歴史は複雑すぎて、途中でこんがらかってしまうことも多かった。やはり付け焼刃ではダメである。

最後に

 ここからは、行ってみた感想。短い期間でガイドさんに聞いたこと、自分が感じたことなので、思い違いなどあるかもしれませんが。
 行く前にはアケメネス朝ペルシャササン朝ペルシャなど歴史上、有名なペルシャ帝国と現在の報道されているイランが、なかなかイメージの上で一致しなかった。ただし、そこに人が住み生活している以上、そんなに恐ろしいこともないのではというぐらいに思っていた。
 実際に行ってみると、テヘランは大都会だった。心配していた治安面は問題を感じなかった。夫と2人で歩いているということもあり、昼はもちろん夜でも危険とは思えなかった。夜9時ごろでも街では人通りも多く子供を連れた家族も歩いているので、おそらく心配はいらない。少なくとも日本人の私たちには、みんな親切だった。道路を渡るとき怖そうにしていたら(みんな信号が変わる前に歩き出すので車の中を縫って歩く感じになる)、自分について来いと合図をして渡ってくれた人。できるかどうかは別にして、困っていることがあれば助けてあげようというそぶりがあちこちで感じられた。一緒に写真を撮ろうと言ってきた人。たいていの人が快くカメラの撮影に応じてくれた。休日の公園は家族連れでにぎやかで、日本のお花見のようにシートを敷いて、おしゃべりをしながらお茶を飲んでいる(お酒が飲めないので)人たちが多かった。服装をのぞけば、休日の日本と同じ感じ。ただし、家族の縛りは強そうだと感じるが。
 宝石博物館で出会った日本人の青年は、学生時代からシルクロードを順に旅しており、前回はウルムチ、今回は終点のイラン(ペルシャ)へ来たそうだ。たまたま出会ったイラン人のお宅にホームステイさせてもらって、親切にしてもらった、また来たいと感激していた。旅人をもてなす文化健在といったところだろうか。これも誰にもお勧めできる経験ではないけれど。
 都会での教育水準は高そうだ。しかも大学進学者の60%は女性。男性は1年半の兵役がありその間に勉学熱がさめてしまうこともあるとか。女性の服装はスカーフにコートだが、それを除けばごく普通に仕事をし車の運転もする。男性に付いて歩いているという印象はない。一般的には結婚しても女性が働かないと生活水準が保てないということでもある。彫りの深い顔立ちの美人が多く、おしゃれである。女性がしっかりしている(おそらく家の中ではもっと)印象を受ける。もちろんスカーフは家の中ではしないそうだ。
 ガイドのマンスーリさんによれば、首都テヘランの家賃は高く、子供たちは結婚するまでは親と一緒に住むのが普通だそうで、登山ガイドのホセインのように18歳のときから独立して親とは別に住み、結婚前に女性と同棲するような人は珍しいそうだ(彼はその女性と登山後、婚約式をするそうだが)。結婚年齢は徐々に遅くなっていて、だいたい20代半ばが多いそうだ。夏は結婚シーズンらしく、花束を外にくっつけて花嫁を迎えにいく花婿の車を何台も見かけた。男性はタキシード、女性は白いウエディングドレスが普通。
 また夏休みとあってか、里帰り中のイラン人男性と日本人女性の家族連れにも数組出会った(その反対の組み合わせはほとんど無しとか)。ダルビッシュ君のことも知ってはいるが、サッカー一番のイランでは野球選手は今ひとつぴんとこないようだ。
 都会では英語がかなり通じる。というよりよい仕事に就くためには英語が必要とのことで、一番人気の外国語は英語。かつての親米国、今、反米国と言われるが、米国文化への関心は高いと感じる。自分たちはアラブではない、ペルシャなのだという誇りと現状とにどう折り合いをつけているのだろうか。
 旅人に本心を明かしてくれるはずはないが、自分たちの文化に誇りを持ち、教育程度も高い人たちが現在の体制に満足できるかどうか。今回の大統領選挙後のデモなども、いち早くツイッターを使った情報からと聞く。ただし、都会と田舎の生活レベルの違いは激しい。田舎では現大統領の人気は高いそうである。

事前に読んでいった本など

最近、気に入っている歴史シリーズ。学生時代に勉強した西洋からの視点ではないのが新鮮。

アレクサンドロスの征服と神話 (興亡の世界史)

アレクサンドロスの征服と神話 (興亡の世界史)

イスラーム帝国のジハード (興亡の世界史)

イスラーム帝国のジハード (興亡の世界史)

シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史)

シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史)

発売当時に読んだものを再読。
ペルセポリスI イランの少女マルジ

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刺繍 イラン女性が語る恋愛と結婚

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ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る

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テヘランでロリータを読む

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柘榴のスープ

柘榴のスープ

トルコのノーベル賞作家。細密画のことが書いてあり、この本のおかげでつい細密画を買ってしまった。
わたしの名は「紅」

わたしの名は「紅」

スカーフを被らなければいけないイラン、被ることが特別の意味を持つトルコ。隣国のその対比が興味深い。
雪

フランス人商人のペルシャ旅行記を読み解いた本。書いてあることの真偽は別にして、意外と読みやすく、中東へ行くときは読み返す。
歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)

歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)